警察が行う防犯講座・不審者対策講座の限界
かつての虐殺事件を受け、公共施設や福祉施設、商業施設などでは防犯講座や不審者対策研修に力を入れているところが多いですね。
警察から講師を呼んでの研修は無料で行え、手軽な不審者対策研修として人気です。
警察の防犯講座や不審者対策研修を受け、施設にさすまた一本を備え付けてとりあえずは安心する。そんなところも多いのではないでしょうか?
しかし実は警察の講習だけを受けてさすまたを導入する。これだけでは大変リスクのある備えとなります。
なぜなら警察が教えてくれる防犯や不審者対策内容とさすまた一本では福祉施設の不審者対策にはあまり効果がないと言えるからです。
もちろん警察が行ってくれる不審者対策講座は手軽で無料です。管轄の警察署に依頼すれば事前準備も特に必要とせず比較的短期間で実施することができます。
公的機関が行ってくれるので信用性がありますし、施設での実績としてもしっかりとしたものになります。それについては全くの異論はありません。
問題なのはその内容です。
例えば津久井やまゆり園での事件を想定したような「刃物を持った男の侵入に対しての対応方法」。これを本格的に指導してくれるようなところはほとんどありません。
※施設のニーズによりある程度踏み込んだ内容の話をしてくれる所も稀にありますのでその点については問い合わせてみましょう。
「暗号を使って助けを呼べ」、「物を持って距離を取れ」、「さすまたを使え」、大量の命が一瞬にして奪われた過去の事件から照らすと何とも平和的な行動だと感じてしまいます。
警察が教えてくれる護身術もそうです。
「相手をいかに傷つけないか」、「相手の拘束からいかにして離れて逃げるか」、その考えている間にすでに命が絶たれているケースもありますね。
しかしそれは決して警察が悪いのではありません。仕方のないことなのです。
警察が教えてくれるのは「市民が行えること」まで。市民向けの講座ですから。
公的機関が教えられることには限界があります。
市民に対して少しでも間違った内容を教えてはいけない。オブラートを何重にも包んで伝えないと勘違いして間違った行動をとってしまう方もいますから。
そうなると「警察が教えてくれたことが間違ってた」などと言われ、問題となってしまうのです。
また、警察署は法律についての講釈をしてくれることはほとんどありません。
明らかに条文で定まっている程度のものは教えてくれるでしょうが、判例に沿った解説や確定力のない法学者の学説等は教えてくれません。
それも警察が悪いのではなく、教えたくても教えられないからです。法の専門家ではない警察が法について講釈することはよろしくないですし、間違ったことを市民に教えてしまうと大きな問題となります。
警察はあくまでも「市民レベル」で「セーフティーな内容」しか教えられないのです。
さすまた(刺又)一本で不審者に立ち向かうのは大変危険
警察ではかつてから「さすまた(刺又・刺股・指叉)」の設置を不審者対策にあげます。
これにも不安があります。
さすまたは昔から使われている立派な防犯用具です。
もちろん現在の用途でも使われていましたが、象徴的なのは「火消し」の方達の使用方法です。
昔の家事は水で火を消すことよりも「家を倒壊させて延焼を防ぐこと」が重要でした。
その際、家の柱等を倒すためにさすまたが使われていました。
現在の消防署の地図記号がそれを物語っていますね。
なぜさすまたでは不安なのか。
それは使用方法に誤った認識があるからです。
さすまたの使用方法は、「相手を先端の輪っかにはめればいいんでしょ?」。確かにそういったイメージを持ちますよね。
しかしそれは少し違うのです。
例えばこの動画を見てください。
(茨城新聞様youtubeチャンネルより)
この画像では「圧倒的多人数で取り囲み」、「タイミングを測って四方からさすまたで相手を挟み」、「体を倒し」、「相手の体の上にのしかかって手を固めて拘束する」このような一連の動作が警察官によって行われています。
さすまたは「相手を挟んで終わり」ではなく、相手を完全に拘束するまでの過程で使用する道具なのです。警察官だってそのように使っています。
私が施設の防犯用具としてさすまた一本だけを設置していることに不安を覚えるのは、さすまたの本来の使用方法を知らない方が多いからです。さすまたは、少なくても2本必要であり、また使用するためには相手を倒して手を固める等の身体拘束術までを知っていなければ効果は発揮できません。
例えば、さすまた術や護身術の専門家は「さすまたを女性が一本で使うこと」については逆に危険性が増すことを指摘しています。それなら使わずに逃げた方が良いということです。
女性がさすまた一本で、一人で刃物を持って興奮している男性に立ち向かうのは逆に命の危険が増してしまうわけですね。
ということで、さすまたの本来の使用方法を知っていれば、女性職員の多い福祉施設等でさすまたを事務所に一本だけ置いておく、なんてことは考えないでしょう。
【さすまたにはその他のリスクも考えられます】
施設の防犯・不審者対策を見直そう!
しかし多くの施設では、「警察の講座を受けてさすまたを購入したからもう安心」、と思ってしまっていると思います。
もしさすまたを防犯用品としてうまく活用したいのなら、女性の少ない職場であって、少なくとも2本以上、そして身体拘束ができるまでの格闘術(護身術)を訓練すべきだと思います。そこまでして初めて使える道具だからです。
そして日々の業務の中でそこまで訓練することはなかなか難しいと思います。
訓練中にケガをしてしまうことも十分考えられますからね(労災を申請したら疑われてしまいそうですね…)
ということで、特に訓練も行っておらず、さすまた一本だけ置いてあるだけといった施設についてはもう一度不審者対策について見直した方が良いと思われます。
実例としては、女性が多い施設であったため、さすまたの導入を見直して防犯スプレーを設置することにしたところもあります。防犯スプレーなら女性でも簡単に相手を行動不能にできる可能性がありますからね。
それでも防犯スプレーの成分や効果などを知る必要がありますし、正当防衛等の法的な知識も最低限必要になります。相手をどんな時にどこまで攻撃して良いのか。それを知らないと職員側が犯罪者となりかねませんから。
どんな防犯用具でも、それを使用するためにはしっかりとした訓練や法律の知識が必要だと言うことですね。
福祉施設や公共施設、商業施設等で防犯対策を考えている皆様。お客様や利用者様、そして自分自身の命を守れるレベルの高い職員となるために、しっかりとした知識を身に付けていただきたいと思います。
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